「普通の女の子だよ」
 人間で、今は大学に通ってる。街外れの路地で出会ったんだったかな。そのときはお腹空いてなかったんだけど、美味しそうだったから連れて帰ろうと思って。でもその前にマスクを作ろうと思ったんだ。彼女の形のね。外見が僕の好みだったし、肌もきれいで、そういう子の生皮のマスクを欲しがる人、けっこういるんだよ。あとは、うーん、やっぱり美味しそうだったから。
「こんなこと聞いて、どうしたの」
 ウタさんの彼女ってどんなひとなんですか、って、カネキくんはマスクのメンテナンスついでにぽつりと聞いてきた。ぼくの彼女が人間だって誰かから聞いたみたいで気になったらしい。カネキくん、今は恋人はいないって言ってたっけ。急に恋人が欲しくなったのかな。好きな人が出来たとか?
「いえ……興味があったというか」
「人間の恋人がいるなんて不思議だった?」
 カネキくんは少し気まずそうに、小さくうなづく。別にそんなに、申し訳なさそうにしなくていいのに。まあ、そうだよね。普通は食べちゃうよね。ぼくだって最初はそのつもりで、ちゃんに声をかけたんだし。
「ぼくはね、ただ、食べるのが惜しくなったんだ」
 最初はどうして自分がこんなに彼女に熱心になっているのか、よく分からなかったよ。たしかに美味しそうで、食べたいとは思ったけど、どうして殺しちゃうのは勿体ない、なんて感じるんだろう? って。でも、彼女の傍にいて、ずっと見ていたらさ、笑顔とか、泣いてる顔とか、ぜんぶ可愛いなって思ったんだ。いい匂いもするし、声もきれいでさ。細い首はぽきって折れちゃいそうなのに、腕や身体は柔らかくってふわふわしてて……。たしかに美味しそうだけど、もっとたくさん、見ていたいな、って思った。生きて、ぼくの傍にいてくれたら、どうだろうって。だから食べれなくなっちゃった。
「だから頑張って、口説き落とすことにした」
 あんなに魅力的な子、他の喰種に狙われない訳がないから、ぼくが守ってあげようと思ったんだ。幸いなことに、彼女もぼく喰種だってことを受け止めて、頑張って受け入れようとしてくれたから。本当に普通の女の子なんだよ。最初なんて、食べられたくないってぼろぼろ泣いてたし、一人でこのお店に来るのにも抵抗あったみたいで、ぼくの家に呼ぶときだっていつも、ぼくが迎えに行ってた。今はもうぼくがちゃんのこと食べたりしないって、分かってくれてるけどね。ここまで来るのに随分、時間かかったなあ。
「……カネキくん? どうしたの」
 顔が赤いよ。ぼくが彼女の話ばっかりするから、照れちゃった? 君にも会わせてあげたいけど、どうかな。少し怖がっちゃうかもね。ちゃんは怖がりなんだ。っていうのもさ、ぼくのせいなんだけど、一回マジで噛みついちゃったことがあってね。本当に怯えちゃって、あのときはもう二度とぼくに会ってくれないかと思った。本気で謝って、何度も会いに行って、次同じことしたらもう会わないって約束で、やっと許してもらえたんだ。
「だからちゃんのこと怖がらせた奴は、ぼくが殺すよ」
 カネキくんとは是非仲良くしてもらいたいな。ぼくはちゃんのこと大好きだけど、カネキくんのことも好きだから、殺したくないなあ。なんてね。冗談だよ、今度、会わせてあげるよ。美味しそうな可愛い子だけど、ぼくのだよ。




恋人がたり (140726)




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