キスしながら押し倒すとの肩がぐっとこわばった。閉じたくちびるを親指で押し開いて、舌をねじ込めば控えめに反応が返ってくる。焦ったリップ音と、荒い呼吸だけが間近で響いて、呼応するように心音が早くなる。目をぎゅっとつぶって、必死に俺に応えようとしてくれてるが可愛かった。キスにもずいぶん慣れてきた気がするし、俺にだけ見せるのこういう顔があるのが、どうしようもなく嬉しい。
 服の上から胸に触れると、びっくりしたらしいが俺の肩をつかんで身構える。なんだよ。今更やめるとか、聞かねーぞ。じろり睨んでやると、はすごすごと目を逸らして、凛、と俺の名前を呼んだ。

「やっぱり、心の準備が……」
「はあ? ……いらねーよ、そんなもん」
「い、いるよっ」

 泣き言をいうくちびるを噛むように塞いで、の手に自分のそれを重ねて、指を絡める。がちがちになっていた体が少しずつ解れていく。そのまま首、鎖骨とくちびるを這わせて、ちゅっと音を立てて離れる。の顔はもう真っ赤になっていた。震えてるのか、手はずっと俺の肩においたまま。

「ちゃんと優しくすっから」

 囁けば観念したのか、ようやくはうんと言った。この時を待ってた。もうずいぶん、我慢したと思う。今まで散々タイミングを逃して、こういう空気に慣れてないはすぐに逃げようとするから、正直かなり苦労した。興味ないわけじゃないくせに、きっと踏み込むのを怖がって、それとなくスルーされてきた分が俺にも溜まっている。
 何度もキスをして、少しずつ手を這わせていく。服をめくり上げて露わになった下着に指を引っかけると、はまた目を閉じて、いや、なんて言うから、ふっと笑ってからかってやった。そういう声出されると、興奮する。林檎のように真っ赤になってしまったの体がまた少し固くなる。

「っん、凛…………」

 かすれた声が耳元に囁かれて、ぞくりとする。やばい、可愛い。服を脱がせて、引っかけられていただけの下着を取っ払う。曝け出された白い肌にくちびるを落として、とがり始めた胸の先に舌を添わせると、の体がびくりと反応して、むずがゆそうに身をよじった。俺を見上げる瞳が熱く、無性に煽られてしまう。俺もあまり余裕がないみたいだ。舌先で先端を舐めて、強く吸い上げると、は俺の肩をぐっと掴んで、吐息を漏らす。何度もしているうちに、の肌はどんどん敏感になって、固くなったそれを甘噛みしてこぼれたの小さな喘ぎに、ごくりと生唾をのんだ。

「…………辛い?」

 自分の口を覆って、が首を振る。良かった。なだめるように額にキスをしながら、スカートをずり下ろして太ももを撫で上げる。がまた眉をひそめて、はあと息を吐き出した。の体は細く、やわらかくて、きれいだ。すべすべした肌が触り心地よくて、その白さにうっとりしてしまう。一生懸命、俺に合わせてくれるところとか、恥ずかしいのを我慢して、こうやって俺に身をゆだねてくれるところとか。はいつも分かりやすく俺に好きだと伝えてくれるから、俺はいつも安心していられるのだと思う。

「り、凜、だめ……」
「ん…………聞こえない」
「あ……っ、も、もういい、」

 何だよそれ、と思わず吹き出す。俺は全然よくねーよ。
 大丈夫だから、と呟いて、恥ずかしがるそのくちびるを塞ぎながら、下着のクロッチの部分をそっと撫で上げる。閉じようとする足を押し広げて、指の背でそこを撫でるとひくついて、濡れ始めているのが分かって嬉しくなった。可愛い、。やっぱり俺もあんまり、我慢出来そうにない。泣きだしそうな真っ赤な顔をして、浅い呼吸をくりかえすが、恥ずかしい、と涙声でつぶやいたので、ついもう少し虐めてしまいたくなった。

「濡れてる」

 言わないで、とは本当に涙をにじませて、目を逸らした。ぞくぞくと背筋に何かが走って、つい息が乱れる。下着に指を差し込んで、指先で入口を探り当てると、溶けそうなくらい熱く湿っていた。はついにいやだと首を振って俺を押し返す。それは弱い力で、何の意味もないけれど。下着を全部脱がせて、呼吸のたびに上下する胸にキスをして、先を舌で転がして舐めていると、奥からゆっくり蜜が溢れてくる。今度は少しずつ指先を飲みこんでいった。
 息を飲んだを落ち着かせるように、キスをしながら中に押し進めていく。ぎゅうぎゅうに狭くて、うねりながら俺の指を押し戻そうと動いているのが分かる。大丈夫か、これ、と少し不安に思いながらも、痛いくらい締めつけてくる中で、指の腹を押しつけるように奥を刺激した。

「痛いか」
「……っ、ん、少し……」

 まあ最後までできなくても、この際いいか。なんて、その表情を見て思わされる。当然、俺は我慢できる状態ではないわけだけれど、震えながら浅い呼吸をくりかえしているに、あまり無茶はできないし、が本当に俺の為に、一生懸命受け入れようとしてくれてるのが分かるから、それだけでも十分嬉しいのだ。本当に。
 ぬるついた肉芽を指先で撫ぜると、がびくりと反応して、小さく声が漏れた。声を我慢できないらしく、はとっさに手の甲を口に押し当てる。我慢しなくていいのに。もっと声、聞きたい。それを指の腹で押して、強めに刺激を与えると、中がひくひくと震えてもっと湿っていく。ぐちゅ、と水音が響いて、は心底恥ずかしそうに目をつむった。もうやだ、と泣き声が聞こえる。
 キスをして、舌を絡めて、少し余裕の出てきた中で指を動かす。まだ狭いけど。指、二本入るか?探り探り、の反応を見つつ入口に押し込むと、は痛がって声を上げた。駄目か。閉じようとする足を押し上げて、肉芽を抓むと名前が甘く悲鳴をあげた。

「力抜け、って……」

 肩で息をするは、首を振りながらも、ゆっくり指を飲みこんで、辛そうに目をつぶって堪える。鎖骨や胸のあたりに何度もキスをして、俺が無意識に、可愛い、と呟くと、の中がきゅうと狭くなった。時間をかけて指を差し入れて、熱く溶けるそこをゆっくりと動かして、馴らしていく。びくびくと締めつけながら、肉芽を抓めばはいっそう泣き声をもらして、中をもっと溢れさせていく。狭い、けど、さっきよりは余裕がある。
 のこんな姿を見て、俺ももう限界なんだけど。でも、さすがにこれ以上負担かけるのは、あれだよな、と指を引き抜きながら思う。熱く、辛そうに息をするが、ふと俺の名前を呼ぶ。おもむろに首に抱きつかれて、何かと思えば、珍しくのほうからキスをされて、やっぱりどうしようもなく興奮してしまった。ここで止めるのは正直きつい、けど。縋るように舌を舐め合わせて、銀の糸を作りながらくちびるを離す。

「……凛、して、いいよ」
「…………、」
「大丈夫だから」

 …………なんでお前そんな、顔するんだよ。さっきまであんな、泣いてたくせに。
 はいつもこうだ。一生懸命、俺に応えようとして、俺のことばっかり考えて、いつだって優しく受け入れてくれるんだ。
 好きで、好きでたまらない、と思った。これ以上どうしたら伝わるのかとか、そういうんじゃなくて、ただ好きだって。をこのまま俺のものにしたい。今までタイミングを図ってきたけど、やっぱり今その時が来たんだと思う。のまぶたに滲んだ涙にキスをして、柔らかく華奢な体をゆっくり撫でる。いとしい。この小さな体で俺を受け入れてくれるのが、いとおしくて、たまらない。

「好きだ…………」

 うわ言のように呟いたそれに、が笑う。本当はそんな余裕ないくせに、俺の背中に手を回して俺を見る。赤く染まった瞳を見つめれば、波のように色んな感情が押し寄せてきた。全部抱きたい。優しくして、の全部を俺のものにしたい……。気持ちばっかりが逸って、つい生唾を飲み込む。ゴムをつけたそれを狭い中に無理やり押し入れて、たまらず声が漏れる。きつくて、やっぱり無理か、とも思う。でも息を吐き出すが、大丈夫と言って抱き寄せるから、それに甘えてゆっくり少しずつ腰を沈めていった。熱い。溶け出しそうだ。はあ、と吐き出されたの吐息が甘くて、今にも理性が弾け飛んでしまいそうになる。
 の頭を撫でて、髪をといて、名前を呼んでキスをして。ようやく一つになれたとき、無性に嬉しくて、愛しくて、何度も好きだと囁きながら、こみ上げてくる涙をこらえた。
 情けないけど、嬉しかったんだ。気持ちよくて頭が真っ白になりそうだ。ぎゅうぎゅうに狭い中で締めつけられて、どろどろに熱くて、息が上がってだらしない声が漏れてしまう。はやっぱり辛いのか、ぽろぽろ涙をこぼしていた。ごめん、と気づけば謝っていて、がふるふると首を振って、俺に抱きつくから、可愛いそれに俺はもう苦しくなって、少しずつ腰を動かした。キスをすれば、は眉をしかめて、でも離れるともう一度キスをせがむ。少しでも離れるのが不安だって言ってるみたいだ。なだめるように名前を呼んで、何度も、何度もくちびるを押しつける。

「凛……、好き、」

 涙の混じったその声に、愛しさがあふれてやっぱり、少し泣きそうになった。俺はもう愛してるよ。俺の全部を受け入れてくれるが、いま世界のなによりも愛おしくてたまらない。




花にして散らそうか (140401)























 巻島くんは変わっているなあなんて当たり障りのないことを思う距離にいたはずなのに、今こうして睫毛が触れそうなくらいの近さに彼がいるなんて、我ながら不思議なことをしているなあと思う。最初は遠くで応援しているだけだったのに、気がつけば裕介、、なんて下の名前で呼び合うようになって、今では手を伸ばせば触れ合って、頬を寄せれば甘えられる距離にいる。きっと裕介が周囲から怖がられているのは、その瞳が人形のようにきれいだからだ。色白の体も長い髪も、同じ年で同じ日本人だとは思えないくらい、きれいで、魅惑的で、夢のようだといつも思う。
「言いすぎッショ」
 わたしが裕介をきれいだと言うたびに裕介は複雑そうな顔で眉を寄せる。そうかな、多少は惚れた弱みもあるかもしれないけれど、気づいてる人はきっとたくさんいるよ。誰も裕介の魅力に気づかなくていいのに、と思う反面でどうしようもなく、自慢して、見せつけてやりたくなるときもある。
 これはわたしの。このひとは、わたしの大切なひと。日焼けをした頬が桃色になっている。睫毛が揺れて、眠そうにまたたきをするのを見るのも愛おしい。キスをねだればすぐに応じてくれた。お風呂上りのあたたかい肌に吸い付いて、舌で撫で上げると裕介はくすぐったそうに声をあげる。疲れてるの、と言いながらも裕介は、わたしの腰をぐっと引き寄せて、後頭部を押さえつけて強引に唇に噛みついた。
「ん、んー」
 もう、苦しいったら。おでこをくっつけて笑いあうと、今度は小鳥のついばみようなキスが降ってくる。
 家族が出払っていて誰もいないから、なんて尤もな理由で今日は裕介の家に泊まることになった。家に遊びに来たことは何度もあるけれど、一泊するのは初めてだ。裕介の部屋にこんな時間までいるなんて、いつも通りのようでいつも通りじゃなくて、ドキドキする。小さな世界にわたしと裕介の二人きりになったみたい。なんてばかなことを考えてついにやけていると、頬をむにっと抓まれてしまった。
「何考えてんの」
「なんか、ドキドキするなあって」
「何回も来てるのに?」
 何回来たって、いつもドキドキしてるよ。素直に言ってみると、裕介は嬉しそうに笑ってわたしを抱きしめた。
「ほんと可愛いね、おまえ」
 裕介の髪はまだ少し濡れていて、指で梳くとシトラスの香りがした。じゃれつくように唇を重ねて、目を閉じていればいつの間にか天上を仰いで、裕介の腕の中に組み敷かれている。骨ばった裕介の体は細く見えるけれど、こうして触れているとどこもかしこもごつごつしていて、男っぽい。圧し掛かる体は少しだけ重たくて、裕介の存在を確かめられるようで、傍にいる実感を得られる気がして、なんだか嬉しかった。





 熱い吐息を吐き出して、見やれば裕介の白い頬がさっきよりも赤く染まっているのに気がついた。くっついている肌はぬるくて、でも確実に熱を持っている。手のひらでそっと撫でれば、裕介の薄っぺらい皮膚の向こうで波打つ心臓の音が聞こえそうな気がした。尖った喉仏を見上げて、引き寄せて、細い首筋に舌を添わせる。わたしの、わたしのもの。裕介がいつもするように、髪で隠れるところにチュッと音を立てて吸い付いて、小さな跡を残しておいた。
「んあ、こら、残すなよ」
「見えないよ」
「動いたら、見える」
 そっか、裕介の自転車の乗り方、変わってるんだった。思い出して笑って、ごめんねと謝る。
「いいけど」
 するりと這う裕介の手が、わたしの膝の裏をぐっと押す。ぱさりと落ちてきた裕介の髪の一束が肌に当たってくすぐったかった。細い腰骨がぐっと太ももに当たって、体に入ってくる熱い質量に、あ、と悲鳴が漏れる。繋がった部分から響く水音も、荒く息苦しそうな裕介の声も、それに重なるわたしの嬌声も、ぞくぞくと快感を引きたてる麻薬になる。
 そういえばこんな風に部屋が暗い中でするのは、初めてかもしれない。いつもはカーテンに赤い陽の差す夕方や、どうしようもなく明るい昼間の部屋で、その方が恥ずかしいはずなのに、豆電球だけがついたうす明かりの中で抱き合っている方が、なんだか恥ずかしい気がしてくる。何も見えないからだろうか。くっついている裕介の体温と声しかないから。顔がよく見えないから、もっと見たい、もっと声が聞きたい、なんて思ってしまう。
「っは……、んだよ、すげー感じてる、ッショ」
 自身を中に押し進めていく裕介は、うすく汗をかいたわたしの額を指で撫でて、キスをして宥めながら、ゆっくり奥まで押し込んだ。中できゅうきゅう締めつけているのが自分でも分かる。裕介、と泣き声を漏らして、恥ずかしさを誤魔化すために必死に唇を重ね合わせる。舌を舐めて、唇を食んで。少し馴らしてから、中をぐっ、と押しつけるように裕介が腰を動かす。
「は、あっ、裕介、だめ……っ」
 脳をしびれさせる快楽が恐ろしくなって、一生懸命に息を吸いこみながら、逃げたい、と思う。どくどくと鼓動のように脈打つ中で、窮屈そうな顔をして、裕介は辛そうな吐息を漏らした。動きたそうな顔をしてる。待ちきれなかったのか、わたしの膝をぐっと割って、裕介はあまり余裕なさそうに覆いかぶさってきた。
「っ、わり……動くぞ」
 もう限界、と囁いて、裕介は腰を強く打ちつける。いつもと違う雰囲気にドキドキしているのは、わたしだけじゃないのかもしれない。裕介もきっと興奮してる。わたしのせい?裕介の指先が触れるだけで、甘い痺れが体を震えさせるくらい、体の全部が敏感になっているから。もう何にもまともに考えられないくらい気持ち良い。溺れるように、裕介が目を閉じて吐息をこぼすのが、ただただいとおしくてたまらなかった。


*


「……起きてんの。珍しいショ」
 脱力感と一緒に毛布にくるまって、隣に横になった裕介にぴたりと寄り添う。華奢な腕してるくせに、引き寄せられる力は強い。裕介のこういうところ、大好きだ。ごつごつしたこの手のひらに抱きしめられるのが、わたしは大好き。
「寝るのもったいないもん」
「クハッ。そうかあ?」
「だって、お泊りは初めてだし」
 少し気恥ずかしくて、毛布に顔をうずめた。裕介はくすくす笑って、優しく頭を撫でてくれる。幸せで、すぐにうとうとしてしまいそうになる。けれどもっとこの時間を味わっていたいのだ。ストレスも心配事も、裕介に抱かれているうちに全部忘れてしまったから。
「明日、何コマからだっけ?」
「わたしは全休」
「はあ? 何それ。ずるいっショ」
 明日2コマから授業があるらしい裕介は、心底嫌そうな顔をして唇を噛んだ。わたしの耳を引っぱってじゃれつく、ちょっぴり意地悪なところも、気だるい今は少しくすぐったくて心地いい。
「ま、起きれたら行くか」
「それでいいの?」
 裕介は頷いて、毛布をぐいっと引っ張って寝る体勢を作り始めた。身をよじると、裕介の腕が伸びてわたしの頭を支えてくれる。腕枕だ。細い腕、しびれるどころか折れちゃいそうで怖いけど、しびれてもいいのだと裕介は言う。本当は痛いくせに、かっこつけちゃって。でも嬉しいから、今夜はおとなしく腕枕してもらうことにする。
「とりあえずと寝とく」
 そんな一言ですら嬉しいんだから、もう末期だ。どうしようもない。わたしはこんなに裕介のことが大好きで、幸せで仕方がないのだ。目の前の長いまつげが眠そうに、ゆっくりと瞬きをする。おやすみ、と呟けば、唇にキスが落ちてきて、二人で額を寄せあって笑った。




溺れるオーロラ (140616)












































































































inserted by FC2 system